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2023年6月現在のサツマイモ基腐病の最新情報と対策

サツマイモ基腐病は、サツマイモの茎葉や塊根が枯れたり腐敗したりする感染性の高い病気です。糸状菌(カビの一種)によって発生し、九州地方を中心に全国のサツマイモ産地で大きな被害を出しています。


現時点(2023年6月)でのサツマイモ基腐病に関する情報をまとめました。




2022年度までの被害状況

サツマイモ基腐病による被害は、鹿児島県・宮崎県を中心に大きな問題となっています。特に2021年産では、長雨の影響もあって壊滅的な被害となりました。鹿児島県で2021年にサツマイモが栽培された農地のうち、74.5%の圃場でサツマイモ基腐病が発生しています。


もともと南九州や沖縄で確認されていた病気ですが、現在では全国各地に広がっています。

2023年2月時点で、沖縄県・宮崎県・鹿児島県・福岡県・長崎県・熊本県・高知県・静岡県・岐阜県・群馬県・茨城県・東京都・千葉県・岩手県・愛媛県・福井県・埼玉県・山形県・石川県・北海道・鳥取県・長野県・広島県・徳島県・神奈川県・兵庫県・岡山県・大阪府・和歌山県・三重県・愛知県の31都道府県でサツマイモ基腐病の発生が確認されています。

もはや、特産地の農業関係者だけの問題ではなく、家庭菜園も含めた全国の農業者にとっても他人事ではありません。


収穫量の大幅な減少を受けて、加工品の製造にも影響が出ています。「黒霧島」などの芋焼酎を製造販売する霧島酒造では、十分な量の原料を確保できなかったとして一部商品の販売を休止しました。燃料代高騰の影響もあり、事業継続が難しくなっている酒造メーカーも多い状況です。


幸いなことに、昨年(2022年)はサツマイモ基腐病の発生は大幅に抑えられました。台風や大雨が少なかったなど天候に恵まれたことや、抵抗性品種への切り替えが進んだこと、病気のまん延前に収穫する「早掘り」などの対策が功を奏したと見られています。しかし、根本的な解決策が解明されているわけではなく、引き続きさまざまな対策を徹底していく必要があります。


2023年度の発生状況と最新情報

2023年産においては、既に宮崎県と鹿児島県でサツマイモ基腐病の発生が報告されています。(2023年6月18日時点)


○宮崎県

2023年5月17日付にて、宮崎県病害虫防除・肥料検査センターから、「病害虫防除情報第1号」が発表されました。

宮崎県内の青果用サツマイモ圃場および原料用サツマイモ圃場において、基腐病の発生が確認されたとのことです。梅雨入りに伴って発生拡大が懸念されています。


○鹿児島県

2023年5月26日付にて、鹿児島県病害虫防除所から、「病害虫発生予察注意報1号」が発表されました。

鹿児島県南薩地域の13の圃場において、基腐病の発生が確認されています。「コガネセンガン」など病気への抵抗性の弱い品種を主体に発生しているとのことです。



基本的な対策は「持ち込まない」、「増やさない」、「残さない」

サツマイモ基腐病の基本的な対策は、「持ち込まない」、「増やさない」、「残さない」の3つです。

・畑に菌を「持ち込まない」ために、健全な苗を確保する

・菌を「増やさない」ために、排水対策、発病株の除去、適切な薬剤散布を行う

・畑に菌を「残さない」ために徹底した残渣処理を行う


「持ち込まない」ための有効な方法のひとつが、バイオ苗やウイルスフリー苗を導入することです。ただし、バイオ苗なども病原菌に感染している可能性はゼロではないため、必ず苗消毒を行う必要があります。苗消毒は希釈したベンレート水和剤にドブ漬けすることで行います。


種イモには、病気が発生していない専用圃場から採取したイモを使うのが原則です。また、種イモの貯蔵前処理によって発病リスクを抑えることが確認されています。病気の原因となる菌は46℃以上で次第に死滅するため、48℃の温湯に40分間漬ける(温湯処理)ことで発病を抑制し、腐敗の発生リスクを軽減できます。


「増やさない」対策として重要なポイントは、早期発見と排水対策です。基腐病は水を介して広がるため、雨が降った後の水はけを確保するための排水路管理が重要になります。


発病してしまった株は圃場の外で処分します。よく点検して発病株の早期発見につとめ、見つけた場合はすみやかに抜き取り、圃場の外に持ち出して処分する必要があります。茎葉が繁茂してからでは初期症状を見つけにくくなるので、生育初期に畑をよく観察することが大切です。


「残さない」対策では、収穫後の残渣処理が重要になります。基腐病の原因となる病原菌は、圃場に残された残渣で越冬し、翌年の伝染源になります。残渣を圃場外に持ち出して適切に処分することが大切です。


病気に強い品種を活用することも効果的です。焼酎原料用では「みちしずく(九州200号)」、青果用では「あまはづき」や「九州201号」が基腐病に強いという評価を得ています。


また、茨城県では2023年5月に改正植物防疫法にもとづく総合防除計画を策定し、特にサツマイモ基腐病については「遵守事項」を定めました。農家だけではなく家庭菜園を含むすべての農業者を対象としており、勧告や命令を経ても遵守事項に従った防除を行わない場合には、最大30万円の過料が科されます。


参考文献・参考情報まとめ


サツマイモ基腐病の対策は、自治体や公的機関などが多くの情報を発信しています。是非参考にしてください。


○農研機構

・サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策(令和4年度版)

防除対策について技術者向けに紹介するマニュアルです。


・サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書

防除対策についてわかりやすく紹介されたマニュアルです。上記の「技術者向け」と合わせてチェックしてみてください。


・防除対策について(YouTube動画まとめ)

農研機構のマニュアルに基づいて制作された動画がまとまっています。


○鹿児島県

サツマイモ基腐病対策に関する情報(まとめページ)

生産者向けの「時期別対策」や「生産工程管理表」などが整理されています。


○宮崎県

サツマイモ基腐病の対策を徹底しましょう!

「防除暦」や「感染拡大防止チェックリスト」などが整理されています。


○茨城県

サツマイモ基腐病に注意しましょう!

生産時期別の詳しい対策情報がまとまっています。



○「病害虫・雑草の情報基地」

全国の病害虫防除センターなどが発信している予察情報を収集しているウェブサイトです。



本記事は、農研機構の技術者向けパンフレットや各自治体の発信する情報を元に執筆しています。最新情報は、各自治体や公的機関のウェブサイトなどもご確認ください。

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