薩摩半島の南部に位置し東シナ海に面する鹿児島県枕崎市には、日本を代表する焼酎メーカー「薩摩酒造」が拠点を構えています。
1936年創業の薩摩酒造は、全国有数の焼酎メーカー。芋焼酎「さつま白波」のほか、麦焼酎「神の河」などさまざまな焼酎の製造販売を手がけています。
芋焼酎の原料は、サツマイモと米麹。明治期から焼酎造りを手がけてきた黒瀬杜氏の伝統的な製法から生み出された豊かな味わいは、全国の焼酎ファンを魅了しています。
同社で製造を務める本部長の吉元義久さんに、芋焼酎のメーカーから見たサツマイモ基腐病の現状や課題についてうかがいました。
原料が変われば焼酎も変わる。品質担保に課題山積
——サツマイモ基腐病が原因で焼酎の原料となるサツマイモの収穫量が減少するなか、貴社の現状について教えてください。
サツマイモ基腐病の存在は2018年ごろに聞くようになりました。当社にとっての喫緊の課題は、芋焼酎の原料であるサツマイモの確保です。従来から余裕のある生産計画を立てていますが、確保できているイモの量は十分とは言えず、本来想定していた数量を調達できていません。
サツマイモ基腐病が確認されてから、さまざまな対策がなされていますが、サツマイモ全体の収穫量はまだまだ十分ではない為仕入れ価格も上げざるを得ない状況です。今後もこのような状況が続く場合には、販売調整などの対応も検討する必要が出てくる可能性もあります。
——焼酎メーカーとして最も深刻だと感じている問題はどういう点でしょうか。
サツマイモ基腐病に対するさまざまな対策が県をはじめとした行政から示されており、農家さんもそれに従って対応していますが、労力やコスト面で現実的に実施可能な対策が示されているわけでもなく、またその対策が実証されていて出口が見えているわけではないということです。
一方で、コガネセンガンより基腐病に強くて酒質もコガネセンガンに近い品種の植付が本年本圃場で開始されています。それがどのくらいのスピードでどの程度の広がりを見せるか、両にらみで対応していく必要があります。
関係事業者との情報共有も積極的に実施。新商品の開発も検討
——現在、サツマイモ基腐病への対策として取り組んでいることを教えてください。
従来からバイオ苗を育成し、病気に冒されていない苗を農家さんに提供してきました。サツマイモ基腐病に限らず、病気を畑に持ち込まない対策として実施しています。
また、最近では、蒸熱殺菌という新たな殺菌方法が開発されています。この方法は種イモを高温の蒸気にあてることで病原菌を減らすもので、実験では効果があるデータが出ています。農家さんから種イモをお預かりして殺菌処理したものをお渡ししています。しかし、基腐病の菌は畑に残留しているため、苗を無菌化したとしても病気にかからないとはいえず、収穫時にどれくらい効果があるのかはわかりません。
これ以外に関係事業者の連携にも取り組んでいます。毎年年末に実施しているサツマイモ勉強会に行政や農薬メーカー様をお招きして、基腐病に関する情報共有に努めています。また、先ほども触れましたが、九州農研機構様が開発した基腐病により強い新品種のきき酒会が県の主導で行われました。コガネセンガンと酒質が似ていることも確認されており、各メーカーとも焼酎への利用について検討しているものと思われます。
——そういった情報をもとに、御社として別の品種を使って新しい商品開発を行う可能性はあるのでしょうか。
そうですね。実際にサツマイモ基腐病により強いとされる「みちしずく」の種イモを一部の農家さんにお譲りし植付をしていただいています。その生育状況や基腐病耐性を注視しながら、同時に当社独自で酒質の確認も行い、今後の実使用に向け検討しているところです。
——今後、どのような思いでサツマイモ基腐病対策に取り組んでいきたいと考えていますか。
サツマイモ基腐病を克服できるよう関係の皆様と協力してできる限りの努力を行うとともに、さまざまな工夫をしてこれまでと変わらない品質のおいしい焼酎をこれまで通りお客様にご提供していけるよう努めていきたいと考えています。
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