昨今、サツマイモ基腐病の問題が深刻化し、サツマイモ農家だけでなく、サツマイモに関わるすべての産業に大きなダメージを与えています。
農林水産省をはじめ、自治体や農協もさまざまな対応策を提示する中、2023年、株式会社welzoがサツマイモ基腐病に対するプロジェクトを立ち上げました。
飼肥原料・家庭園芸用品・農業資材を中心に卸売業を展開する同社がなぜこのプロジェクトを立ち上げたのか、そしてこのプロジェクトで目指すゴールについて、同社の後藤基文さんに聞きました。
welzoがプロジェクトを立ち上げた理由
――このプロジェクトをスタートしたきっかけを教えてください。
ここ数年、鹿児島の農家さんから「サツマイモ基腐病がまん延してサツマイモがなかなか採れなくなってきている」といった声を聞くようになりました。
なかでも、焼酎メーカーはサツマイモ基腐病で大きな打撃を受けています。「黒霧島」で有名な霧島酒造が、2023年2月中の出荷を持って一部商品の販売を中止すると発表したのは記憶に新しいでしょう。
芋焼酎の原料であるサツマイモは、各メーカーとも冷凍して貯蔵しているのですが、サツマイモ基腐病がまん延してからはそのストックもなくなってきて、新たに仕入れもできない状況です。そういった業界から悲鳴が上がっているのを聞いて、我々として何か取り組めないかと考えたのが、このプロジェクトをはじめたきっかけでした。
サツマイモ基腐病がまん延している大きな理由に、土壌の変化もあるとされています。化成肥料を使った農法を繰り返したことで、土がやせてしまっているのです。土の力が弱まってくると病気への耐性も弱くなってしまうため、おのずと収穫量も減ってしまいます。肥料を扱う当社がこのプロジェクトを立ち上げて、サツマイモ基腐病の現状や対策を広めることで、やせてしまった土壌の地力を回復させる取り組みができないかと考えました。
――公的機関や自治体もサツマイモ基腐病について情報発信していますが、民間レベルでもプロジェクトを立ち上げることが必要だと考えた理由についてお聞かせください。
さまざまな機関や団体が情報発信しているものの、そういった情報がまだ農家の皆さんに行き届いていない印象です。提供された情報に従って対処法を試しても、有効でなかったり、誤った方法で実施していたりするケースも多く、結果としてサツマイモ基腐病を克服できていないという現状があります。
サツマイモは1年に何度も収穫できる作物ではありません。年に一度しかない収穫のチャンスで失敗するわけにはいかないため、農家さんとしてはなかなか思い切った対策に踏み切れないという事情もあると思います。
ただ、土壌改良材などを使って効果が出ている対策もあります。単にサツマイモ基腐病を抑制するだけでなく、土壌が改良することでサツマイモ自体を早く太らせて、早く収穫することも期待できます。農家さんにそういった情報が浸透すれば、ゆくゆく焼酎産業などサツマイモに関わる産業もすべて守っていくことができると考えています。
農家や関係者が知恵を出し合い、助け合えるコミュニティにしたい
――サツマイモは日本でも広く食されており、また、昨今は焼き芋ブームなどもあり注目を集めています。そういった意味でも農家の皆さんや関係者だけでなくさまざまな人に情報発信していきたいという思いはありますか。
日本のサツマイモの自給率は、非常に高く90%を超えているとされています。つまり、サツマイモは国民食ともいえる作物のひとつということ。焼き芋やサツマイモを使ったスイーツ、料理も当たり前のように食べられています。
だからこそ、このプロジェクトを通じて、サツマイモを安定的に収穫し続けられるようにしたいですし、よりおいしいサツマイモを消費者の皆さんに食べていただきたい。サツマイモの食文化を守っていきたいという思いがあります。
また、サツマイモ基腐病がまん延して収穫量が減ってしまうと、日常食として食べることが難しくなってしまいます。価格も高騰してしまうと、なかなか売れなくなってしまい、農家さんも打撃を受け、離農する農家も増えてしまう可能性も否定できません。社会全体でサツマイモ農家さんを守り、応援していただくためにも、こういった現状を広く多くの方に知っていただけると嬉しいですね。
――後藤さんが考える、このプロジェクトのゴールを教えてください。
サツマイモ基腐病の被害をなるべく減らしていくために、対策やソリューションを提供するだけでなく、全国の農家さんや関係者の皆さんとつながって、みんなで知恵を絞って助け合えるコミュニティにしていきたいですね。
ただ、サツマイモ基腐病を撲滅できたらそれでこのプロジェクトは終わりということではないと思っています。それ以外にも病気がたくさんありますし、今後新たに他の病気が発生することもあるでしょう。そういった場合でも、全国のサツマイモ農家さんやサツマイモ産業に関わる皆さん、そして消費者がひとつにつながれるようなコミュニティであり続けたいですね。
サツマイモ基腐病の抑制によりサツマイモ農家さんの収入が上がれば、離農や転作の動きも減り、各地域のサツマイモ生産や関連産業の持続的な保全につながるはず。ゆくゆくは次世代のサツマイモ農業を支える組織にしていきたいです。
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